2021/08/14
【事例あり】コロナワクチン接種、企業で取り組むべきことは?休暇・ハラスメント防止など
新型コロナウイルス感染症が発生してから1年半以上が経ち、日本でもワクチンの接種率が少しずつ上がってきました。
しかし、20代~60代前半の働き盛りの世代にしてみれば、ワクチン接種のために仕事を休むのは決して容易なことではありません。
一方で、従業員がワクチン接種を受けやすい環境を整えることは、今や企業の社会的責務ともいえます。同時に企業は、何らかの理由でワクチンを接種できない、あるいはワクチンの接種を希望しない従業員も過ごしやすい環境づくりも意識しなければなりません。
そこで今回は、実際に休暇制度などを整備して、従業員のワクチン接種を後押ししている企業の事例をいくつか紹介します。併せて、ワクチン接種の完了後に企業が取り組むべき感染症対策も解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
コロナワクチンを受けるための休暇制度はどう整備するべきか
最初に、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する休暇制度をどのように整備すべきかを考えていきましょう。
ワクチン接種に関わる制度を整備するメリット
ワクチン接種に関わる制度を導入すると、企業はおもに3つのメリットを得られます。
従業員のワクチン接種率が高まる
ワクチン接種に関する制度を整え、有給休暇を使わなくても平日の日中などに接種予約ができるようになれば、積極的にワクチンを接種する従業員が増えるでしょう。接種当日だけではなく、翌日以降も休暇を取れることになれば、ワクチン接種後のもしも の副反応にも備えられます。
ワクチン接種を受けやすい環境が制度として整えられれば、従業員のワクチン接種率は自ずと上昇するでしょう。
企業活動の早期正常化
新型コロナウイルス感染症の流行にともない、出勤制限や移動の自粛などを余儀なくされている企業は少なくありません。
ワクチンを接種したところで、感染予防効果は100%ではありませんが、従業員のワクチン接種が進めば行動の制約は緩和しやすくなります。企業活動の再開のためにも、早急にワクチン接種に関する制度を整備することが望ましいとされます。
企業イメージの構築
従業員のワクチン接種が進めば、感染症対策に積極的な企業としての企業イメージを構築できるかもしれません。取り組みが評価されて安全な企業と認識されれば、顧客の信頼獲得や企業間取引の活発化にもつながっていくでしょう。
これは、人との接触が避けられない飲食業や販売業だけの話ではありません。製造業や物流業などであっても、安全・安心な企業であることのイメージは大きなメリットとなります。
接種日~接種後の休暇制度
接種日や接種後の休暇に年次有給休暇を充てる企業もありますが、積極的な接種をうながすために「特別有給休暇」とする企業もいます。
特別有給休暇とは、年次有給休暇とは別に企業が独自に設定する有給休暇のことです。そして、新型コロナウイルスワクチン接種のための休暇は「ワクチン休暇」と呼ばれることがあります。
もっとも、「ワクチン休暇」に統一のルールはありません。そのため、対応も企業によりさまざまです。
例えば、接種当日のみを特別有給休暇としている企業もあれば、副反応に備えて接種日の翌日以降も半日~2日程度の休暇が取得できるとしている企業もあります。
さらには、ワクチンを接種する家族の送迎や、接種後の家族のケアのために休暇が取れる制度を設けている企業もあるようです。
業務時間内での接種を認可している企業も
既存の制度で「ワクチン休暇」を整備できる場合は良いですが、新たな休暇制度を整える場合には就業規則を変更しなければなりません。しかし、就業規則の変更には相当の時間が必要です。
そこで、あえて休暇制度を設けず、別の方法で従業員のワクチン接種を後押ししている企業もあります。
その一つが、就業時間内におけるワクチン接種の推進です。この方法では、就業時間中にワクチンを接種しても欠勤とせず就業したものとみなすため、実質的には「特別有給休暇」の付与と変わりありません。
その他、ワクチン接種会場までの交通費や奨励金を支給することで、従業員のワクチン接種を推し進めている企業もあります。
ワクチンを接種しないことでの過ごしにくさを感じない環境づくり
ワクチン接種が進むと、問題となってくるのが差別やハラスメントです。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止に、ワクチン接種は大きな効果が期待されています。しかしながら、ワクチン接種は義務ではなく、企業命令で従業員に接種を強要することもできません。
ワクチンを接種できない人・接種自体を希望しない人もいます。そのような人たちを守るためには、どのような配慮をすべきなのでしょうか。ワクチン接種を強要できない理由とともに見ていきましょう。
ワクチン接種は強要できない
どのようなワクチンであっても、接種するかどうかを決めるのは本人です。ワクチン接種で得られる感染症予防効果と副反応のリスクをともに理解したうえで、本人の意思に基づき接種を受けるかどうかを決定します。同意のない接種は許されるものではありません。
一方で、アレルギーなどがあるためにワクチン接種ができない人もいます。また、1回目の接種でアレルギー症状があった場合は、2回目の接種は希望しても打つことができません。
厚生労働省の公式サイトでは次のように、企業が従業員にワクチン接種を強要することがないように注意をうながしています。
特に、事業主・管理者の方におかれては、接種には本人の同意が必要であることや、医学的な事由により接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際し細やかな配慮を行うようお願いいたします。
引用:厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
ワクチンに関する差別やハラスメントに注意
それでは、企業はワクチン接種をしない人にどのような配慮をすべきなのでしょうか。
まず、「ワクチン接種は個人の自由であること」を、すべての従業員に知ってもらわなければなりません。そのうえで「ワクチン接種ができない人」や「ワクチン接種を希望しない人」がいることに理解を求め、強要や差別をしないように周知する必要があります。
同時に、企業側も差別やハラスメントにあたる行為をしないよう、注意しなくてはなりません。
例えば、以下の行為は相手に過ごしにくさを感じさせるおそれがあります。また、とらえ方によっては、ワクチン接種を強要していることにもなりかねません。
- ワクチンを接種しない理由をしつこく聞く
- ワクチン接種を出社の条件とする
- ワクチンの接種有無をリスト化して掲示板に張り出す
あらかじめ、差別やハラスメントの被害を受けた人が利用できる相談窓口を用意するなどして、職場全体で「ワクチン接種の自由」を尊重するようにしましょう。
職域接種とは?受付停止後再開は見込めるの?
次は、労働者のワクチン接種率向上に役立つとされる、職域接種について解説します。その内容と現状を、少し詳しく見ていきましょう。
職域接種の制度
職域接種とは、企業や大学などにおいて職域単位でワクチン接種を実施する制度のことです。接種の対象となるのは、自社従業員だけではなく関連企業などの従業員も含まれ、大学であれば学生も対象となります。
ただし、該当企業の全従業員が接種を受けなければいけないわけではありません。接種にあたっては、個人の意思が尊重されます。いかなる場合でも、強要は許されません。
なお、職域接種の実施には以下5つの条件のクリアが求められています。
- 医師や看護師、会場スタッフなどの必要な人員の確保や、副反応報告など必要な対応ができる体制作り
- 接種場所・動線などの確保
- 社内連絡や対外調整を行なう接種事務局の設置
- 同一の会場で2回接種を完了し、最低2,000回(1,000人×2回接種)程度の接種を行なう
- ワクチンの納品先の事業所でワクチンを保管し、接種する
職域接種は、すでに2,000を超える会場で実施されていますが、爆発的な勢いで拡大している第5波のもとで医療スタッフを確保するのは困難が予想されます。職域接種の申請を考えている企業は、まず医療スタッフや医療機関の確保が可能であるかどうかを確かめるべきでしょう。
現在は新規受付を停止
もっとも、職域接種は政府の予想をはるかに上回る申請が殺到したため、6月25日から新規受付が停止されています。一方、受付停止前に申請し、ワクチンの供給を待っている企業・大学については、8月中には接種ができるように準備が進んでいるようです。
しかし、職域接種の新規受付再開の時期について、政府から明確な回答は得られていません。
職域接種に使用されるモデルナ社のワクチンは、9月末までに5,000万回分が供給される計画ですが、すでに6月25日の時点で3,600万回分の申請を受け付けたとしています。さらに、自治体の大規模接種で1,200万回分の使用が決定しているため、残りはわずか200万回分。
このような事情があるため、職域接種の受付再開は現時点では難しいかもしれません。
ただ、国内の大手製薬会社が7月20日、モデルナ社と厚労省の間でワクチン5,000万回分の追加輸入に関する合意が成立した発表しています。早ければ、2022年初頭に追加輸入されるとのことなので、2021年末には職域接種の受付が再開されるかもしれません。
とはいえ、新型コロナウイルス感染症の流行は「待ったなし」の状態です。従業員のワクチン接種を早期に終了したい場合は、やはりワクチン休暇などの社内制度づくりを進め、個別接種や自治体の大規模接種を受けやすい環境を整えておくべきでしょう。
コロナワクチンを巡る企業の対応事例
ここからは、新型コロナウイルスワクチンに関する企業の対応事例を紹介します。
クリエーションライン株式会社
ITプロフェッショナル企業として、多数の実績があるクリエーションライン株式会社は、正社員・契約社員・アルバイトを対象とした特別有給休暇制度を導入しています。
対象期限は設けておらず、ワクチンを接種した当日に特別有給休暇を付与。就業時間中に接種した場合は、当該時間帯を勤務時間とみなすとしています。
さらに、以下のように従業員にも家族にも手厚い制度となっています。
- 接種後に体調不良などが生じた場合は、特別有給休暇を追加付与(最大2日間)
- 家族の接種の付き添いなどにも、特別有給休暇の利用が可能
株式会社イーブックイニシアティブジャパン
次は、電子書籍業界のリーディングカンパニーである、株式会社イーブックイニシアティブジャパンが行なった例を見ていきましょう。
こちらの会社では、就業時間内における従業員のワクチン接種を2回まで認めています。そして、接種後に体調不良などが生じた場合には、1回の接種につき1日の特別有給休暇の取得が可能です。
対象期間を2022年2月末までとしていますが、「政府が定める接種期間に準ずる」としています。
株式会社ココペリ
株式会社ココペリは、中小企業向け経営支援プラットフォームの開発・運営などを手がけている企業です。同社では、全従業員(正社員・アルバイト、業務委託、派遣社員)を対象とした、ワクチン接種支援策を導入しています。
まず、従業員本人が勤務時間中にワクチンを接種する場合は、当該時間帯を就業時間として扱い、接種にかかる交通費を支給。そして、接種後に副反応が生じて就業が困難になった場合は、接種日当日と翌日に特別有給休暇を付与するとしています。
LINE株式会社
コミュニケーションアプリ「LINE」を運営するLINE株式会社も、ワクチン接種に対し特別有給休暇を取得できる制度を導入した企業の一つです。
LINE株式会社および日本国内のLINEグループ各社では、正社員・契約社員・準社員・アルバイトに対して、勤務時間内におけるワクチン接種を認めています。さらに、ワクチン接種後に副反応などが生じて就業が困難となった場合は、特別有給休暇(100%の給与を支給)の取得が可能です。
家族のワクチン接種の付き添いや副反応の看病の場合であっても、積立有給休暇(※)または特別有給休暇(80%の給与を支給)が利用できます。
※積立有給休暇:年次有給休暇の有効期限後、利用できなかった日数分を積み立てて、私傷病や家族の介護の際に活用できる制度
弊社アイグッズ株式会社でも同じく、従業員がワクチン接種を受けやすい環境を整えています。
まず、従業員が就業時間内にワクチン接種を受けることを積極的に認め、副反応が発生した場合にも自由に休暇が取得できることを制度として定めました。
また、在宅勤務も従業員の都合に合わせて自由に選べるようになっているため、ワクチンの接種前後に安静を保つことも可能です。
また「業務が困難というわけではないけれど、出社するのはちょっと不安」といった体調不良でも休暇が取得しやすい体制にしております。
ワクチン接種の進捗は?いつ完了するのか?
ここで、現在のワクチン接種の進捗状況を確認してみましょう。
数字で見るワクチン接種状況
2021年7月30日時点で、少なくとも1回ワクチン接種した人の割合は39.6%、2回目のワクチン接種を終了した人は29.1%です。
これを65歳以上の高齢者に限定してみると、少なくとも1回ワクチン接種した人の割合は86.2%、2回目のワクチン接種を終了した人は75.8%となっています。
なお、7月に入ってからの接種ペースは一日80万回~140万回程度と幅がありますが、おおむね100万~120万回/日と見てよいでしょう。
ワクチン接種完了はいつ?
国民の大半がワクチン接種を完了するまでには、あとどれくらいかかるのでしょうか。
今後も一日100万回のペースでワクチン接種が実施されると仮定した場合、半年後、つまり年明けの1月には接種が完了すると考えられます。
ただし、これはあくまで計算上の話です。新型コロナウイルス感染症の流行が急拡大して医療がひっ迫すれば、ワクチン接種のペースは落ちることも想定されます。ワクチンの供給に遅れが出たり、予約システムなどに大規模なトラブルが起こったりする場合も、接種ペースは落ちるでしょう。
いずれにせよ、ワクチン接種完了までには時間がかかることが予想されるため、引き続き感染症対策には力を入れなければなりません。
従業員と顧客を感染症から守ることは、企業の存続・発展にもつながります。企業価値の判断基準や働き方が大きく変化している今、感染症対策を企業戦略の一つとすべき時期が来ているのかもしれません。
ワクチン接種後も感染対策は必要
ワクチン接種は、新型コロナウイルス感染症の流行を抑制する、効果的な手段の一つとされます。
しかし、感染を100%防ぐものではありません。実際、ワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症に罹患したという報告もあるため、ワクチン接種後も感染症対策は必要です。
「密」の回避・こまめな手指洗浄・マスクの着用など、基本に立ち返って対策を講じれば、感染症の拡大を防ぐことが期待できます。
「密」の回避
新型コロナウイルス感染症は、いわゆる「3密(密閉・密集・密接)」の状態で感染しやすいことがわかっています。特に、変異株のなかには従来型のものより感染力が強いものもあるため、3密がそろう状態だけではなく、1つでも密が発生する場面はできるだけ避けるべきです。
今後、さらに感染力の強い変異株が発生する可能性も否定できません。テレワークやテレビ会議を活用したり、アクリル板を設置したりするなどして、「密」を回避する努力を続けましょう。
手指洗浄・消毒
こまめな手洗いは、感染症予防の基本です。手洗いを励行して、感染拡大を防ぐようにしましょう。外出先で手洗いが難しい場合に備え、消毒用アルコールの携帯も良い方法です。
職場にはハンドソープを備え、タオルの共用を避けるためにペーパータオルを設置しましょう。そして、人が出入りする場所には消毒用アルコールを常備してください。営業など外回りの多い従業員には、携帯用の消毒用アルコールを配布するのもおすすめです。
咳エチケット(マスクの着用など)
新型コロナウイルス感染症は、飛沫や接触で感染が拡大します。接触感染は手指洗浄・消毒で防ぐことができますが、飛沫感染を防ぐためにはマスクの着用が欠かせません。従業員に咳エチケットの重要性を理解してもらい、可能な限りマスクを着用するようにうながしましょう。
ワクチン先進国とされるイスラエルでは、ワクチン接種率の向上にともないマスク着用義務を解禁しましたが、デルタ株の流行にともないマスク着用を再度義務化しています。
マスクの着用は、新型コロナウイルスの感染抑制になくてはならないものです。企業側でマスクを用意するなどして、従業員や顧客を感染から守りましょう。
まとめ
新型コロナウイルスのワクチン接種に関する制度を設けることは、従業員にワクチン接種をうながすだけではなく、業務の早期正常化や企業のイメージアップにも役立ちます。
とはいえ、従業員にワクチン接種を強要することはできません。ワクチン接種を受けやすい体制を整えると同時に「ワクチン接種の自由」を尊重し、企業内での差別やハラスメントを未然に防ぐようにしましょう。
なお、従業員の多くがワクチン接種を終了しても、感染症対策は必要です。新型コロナウイルス感染症の流行をこれ以上拡大させないために、密の回避・手指洗浄の励行・マスクの着用などの感染症対策を欠かさないようにしましょう。
文・監修:中西 真理(薬剤師)
1995年薬剤師免許取得。薬学修士。
医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。
現在は、フリーライターとしておもに病気や薬に関する記事を執筆。